城南コベッツ横浜六浦教室

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横浜六浦教室のメッセージ

雀の子を犬君が逃がしつる~源氏物語第五帖「若紫」から

2024.01.08

NHK大河ドラマ「光る君へ」が始まりました。
第1回「約束の月」では、源氏物語第五帖「若紫」のオマージュというべき
シーンがありました。源氏物語第五帖「若紫」を少しご紹介します。

【原文】
日もいとながきにつれづれなれば、夕暮れのいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のもとに
立ち出でたまふ。人々は帰したまひて、惟光の朝臣とのぞきたまへば、ただこの西面にしも、
持仏すゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。簾少し上げて、花奉るめり。中の柱によりゐて、
脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。
四十あまりばかりにて、いと白うあてに、やせたれど、面つきふくらかに、まみのほど、
髪のうつくしげにそがれたる末も、なかなか長きよりも、こよなう今めかしきものかなと、
あはれに見たまふ。
きよげなる大人二人ばかり、さては童べぞ出で入り遊ぶ。なかに、十ばかりにや
あらむと見えて、白き衣、山吹などのなれたる着て、走り来たる女子、
あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えて美しげなるかたちなり。
髪は、扇を広げたるやうにゆらゆらとして、顔はいと赤くすりなして立てり。
「何事ぞや。童べと腹立ちたまへるか。」
とて、尼君の見上げたるに、少しおぼえたるところあれば、子なめりと見たまふ。
「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを。」
とて、いとくちをしと思へり。このゐたる大人、
「例の心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。
いづ方へかまかりぬる。いとをかしう、やうやうなりつるものを。
鳥などもこそ見つくれ。」
とて立ちて行く。髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。少納言乳母とぞ
人言ふめるは、この子の後ろ見なるべし。

【現代語訳】
日もたいへん長いうえに、することもなく退屈なので、(光源氏は)夕暮れの
ひどく霞んでいるのに紛れて、例の小柴垣のところにお出かけになります。
(光源氏は)お供の者は(都に)お帰しになって、惟光(=これみつ)の朝臣(=あそん)と
(小柴垣のうちを)おのぞきになると、すぐ目の前の西向きの部屋に、
持仏をお据え申し上げてお勤めをする尼がおられました。簾を少し巻き上げて、
花をお供えするようです。中の柱に寄りかかって、脇息(=きょうそく)の上に経を置いて、
ひどくだるそうに読経している尼君は、並の身分の人とは思えません。
四十過ぎくらいで、たいそう色白で上品で痩せているけれども、頰はふっくらとして、
目もとの辺り、髪がきれいに切りそろえられている毛先も、かえって長い髪よりも
この上なく、今風であるなあ、と(光源氏は)しみじみと趣深くご覧になります。
こぎれいな年配の女房が二人ほど、それから子どもが出たり入ったりして遊んでいます。
その中に、十歳くらいであろうかと見えて、白い下着に、山吹襲(=やまぶきがさね)などの
着なれた着物を着て走ってきた女の子は、大勢見えていた子どもたちとは
比べようもなく、成人後(の美しい姿)はさぞかし(すばらしいだろう)と思いやられて、
見るからにかわいらしい容貌です。髪は扇を広げたようにゆらゆらとして(豊かであり)、
顔は泣いたせいでしょうか、手でこすってとても赤くして立っています。
「何事ですか。子どもたちとけんかをなさったのですか。」と言って、尼君が見上げている
顔立ちに、(その子と)少し似ているところがあるので、(尼君の)子であるようだと
(光源氏は)ご覧になられます。
「雀の子を犬君が逃がしてしまったの、伏籠(=ふせご)の中に閉じ込めておいたのに。」
と言って、とても残念だと思っています。そこに座っていた年配の女房が、
「いつものように、うっかり者(の犬君)が、このようなことをしてお叱りを受けるなんて、
ほんとうに仕方がありません。(雀の子は)どこへいってしまったのでしょうか、
だんだんかわいらしくなってきたというのに。烏などが見つけでもしたら大変です。」
と言って立って行く。髪はゆったりとして、たいへん長く、見苦しくない人のようです。
少納言の乳母と人が呼んでいるらしい人物は、この子の世話役なのでしょう。